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「……そんな」
「一匹狼が、人も羨む良家のまともな娘と家庭を持つ、そんな光栄を自分も味わって見たかった。親も無く、系列も無く、まともな学歴もない男でも、生活力さえあれば、まともな結婚が出来るのだと、世間にひけらかしたい気持ちがあったのです」
麻里は言葉を挟む事も忘れた様に達也の口元を見つめている。
「互いを知らない者同士が、漠然とした甘い期待のみで結ばれて、失望して別れていく。それが僕らの結婚でした。満たされない性生活、互いの間に温かな信頼と愛情を持てない二人が、肉体を通じて全人格的なコミュニケーションが出来る訳もなく、生理的な乾きに妻を抱いても満たされずに不満と憎しみだけが募って行きました……」
達也は言葉を止めて、麻里の継ぎ足した紙コップのビールを飲み干した。
「愛情や快楽のない結婚生活なんて男には我慢出来ない。人間の根源は性だと言うように、男にとって性による満足ほど大事なものはありません。私は妻から得られない快楽を外に求めて、心は離れて行きました」
「不倫をしていたのですね?」
麻理は厳しい表情をして、達也を睨みつけた。
「だから愛情と快楽を与えてくれる女性を私は心から愛しました。完全な性の燃焼は私にとっては必要不可欠なもので、段々その女を深く愛するようになったのです。つまり不倫ではなく本気でした。妻から得られない喜びを、私は他の女性から与えられて、仕事と家庭のバランスをようやく保っていたのです」
「その女の人を愛していたのですね……」
「だと思います。白状しますが、その人がいなければ現在の自分は無いと思うくらいに感謝しています」
「愛してはいなかったの?」
麻里は厳しく追及してくる。
「無論、愛していました。八月生まれの、彼女の勝気な明るい性格と美しい豊満な肉体……」
「獅子座ね、明るくて、リーダーシップがあって、しかも慎重で、なかなか冒険には踏み切らない性格で……」
「そのとおり、君の云う通りです。彼女は僕とのアバンチュールは楽しみながら、決して僕の妻の座に座ろうとはしませんでした」
「……」
「彼女には夫があり、家庭があったのです。才気煥発で情熱的な彼女に私は一目ぼれでした。初めて逢った時、互いに何時か愛し合う時が来るだろうという予感を感じました。愛の予感はやはり宿命的なのでしょうか?」
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