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第14章:ロシオの洞窟
早目にホテルのレストランで夕食を摂り、シャワーを浴びて一休みすることにした。夜九時からクエバ・デ・ロシオ(ロシオの洞窟)を巡るバスツアーに予約を申し込んだからである。
達也はツインベッドに身を投げて目を瞑った。今日麻里と巡ったアルハンブラ宮殿の美しい光景、城壁から望んだ深い谷と、雑木林の淡い緑の明暗が瞼のなかで交錯した。麻里と歩いた楽しい一日の思い出が暖かく達也を包んだ。そしていつか深い眠りに落ちて行った。
暗い闇のなかで、もがくような苦しい気配を感じて目が醒めたのは夕方八時を過ぎていた。隣のベッドに寝ていた麻里が苦しそうな声をあげている。明りをつけると、
「私、寒気がして……低血糖かも?」
「低血糖?」
伸ばした麻里の手を握ると、氷の様に冷たく小刻みに震えている。達也は階下のクラークに電話して、熱い紅茶を取り寄せ、砂糖を沢山入れて飲ませ、ベッドに入り麻理の冷たい体と脚を抱きかかえる様に暖めた。
雪国で育った母が子供の頃、達也を寒い冬の夜、布団の中で暖めてくれたように、麻里の手を両手に挟んで揉みさすると、ゆっくりと血の気が通ってきた。
「暖かいわ……まるで母に抱かれているみたい……」
邂逅して間もない若い女を胸に抱きながら、達也の心は父親の娘を労わるような気持ちになっていた。早く快復しておくれと念じながら、麻里の背中を優しくさすった。三十分もしただろうか
「有難う元気になったわ!」
麻里の元気な声が達也の胸元で上がった。別れた娘を抱くような錯覚から醒めて、達也は麻里の体から自分の身を引起し、起き上がった。麻里の顔色は薔薇色に生気を取り戻している。
「麻里は疲れたんだ……アルハンブラの王城を隈なく歩いて、さらに僕の愚痴話を聞かされて精神的に参ってしまったんだ」
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