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たった二、三日生活を共にしただけで他人にこんなにも愛情を感じてしまうのだろうか? それともそれは家族離散という人生最悪の経験をしてしまった初老の男の弱気からだろうか?
目を瞑っている麻里の顔を、ベッドの端に座って眺めると、先ほどとは見違える様な生気のある顔色になっている。
「もう時間よ、そろそろ行かないと……」
「今夜は止めとこう、またぶり返すといけないから」
と、心配する達也に
「大丈夫よ、ほら、こんなに熱くなったもの……」
麻里は手を翳して眺め、達也の手に触れて同意を求めた。他人行儀だった昨夜の二人から急速に親しくなって、二人の心は和やかに満ち足りた。
「旅の病気は命取りだよ、君は疲れているんだ。一人旅の緊張が解けて、疲れがどっと出たのだよ。今夜は大人しく眠って、明日元気が出ればロシオに行こう」
達也は米国から持参したアスピリンを数錠麻里に与え、部屋を暗くして眠りについた。
翌朝目覚めると、若さのせいか麻里はすっかり元気になっていた。
「御腹が減ったわ、」
白い歯を見せながら、大きく伸びをする麻里の豊かな胸がパジャマの胸元から零れる様に見え、達也は眩しそうに目を瞬いた。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ」
達也は麻里の額に手を当て熱を測るが、平熱で安心する。近くのレストランで朝食をゆっくりと摂り、ホテルに帰り休息をする。
迎えのバスに乗りクエバ・デ・ロシオに向うと、バスの窓から山の中腹を繰り抜き漆喰で固めた横穴が無数に見えた。
坂を上り詰め、山の中腹にある洞窟の前にバスは停まった。
「ジプシーは山の中腹を繰り抜いて住居にして居たんだ。水は、トイレはどうなっているのだろうかと気に掛かるが、中を覗いて見るしかない」
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