第14章:ロシオの洞窟

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 入り口は木の扉で、普通の民家と変らない。中に入ると壁は白い漆喰で固め、煉瓦で支持枠を作り、床はモザイク仕上のタイルで明るくて住みやすい住居である。勿論電気もある。  部屋の大きさは高さ三メートル、幅五メートル、奥行き十五メートル程の長方形である。湿気も無く暖かい。壁際に小さい椅子が奥まで並べてあり、バスから降りた二十名ほどのドイツ人客と共にその椅子に座った。  五歳ぐらいのジプシーの幼児とその姉らしい十七、八の少女の踊るフラメンコは先日、ネプチューンで見た商業的なダンスと違って面白かった。 ショウが終わりバスに乗りこむと、入れ替わりに日本人の団体客が洞窟に入っていくところだった。 「こんな所まで日本人が団体で来ているとは驚いたね、余ほど日本は景気が良いみたいだね……」  八十年代の米国の苛烈な不景気を体験している達也には、日本人のお祭り騒ぎに似た農協観光には驚きと共に厳しい冬の到来を知らぬげな日本人の単純さに驚いた。  バスで山を降り坂の町という名前のアルバシンを歩いて見たが、何も興味を引かなかった。途中の食料品店(アルマセン)でパンとサラミ、厚切りのチーズ、キャンテイのボトルを買い込んでホテルに帰って来た。  適当な長さに切ったパンを二つに割り、チーズとサラミを並べて挟むと、キャンテイのコルクを開けた。  麻里のリュックには何でも入っている。インスタントラーメンの袋が、二、三個あったので食堂のおばさんにポットを借りて湯を沸かした。熱いラーメンに堅いパンにチーズとサラミ、それにワインだけの貧しい食事だったが、心の通い始めた二人には楽しい御馳走だった。 「明日はバレンシアに向う。その向こうはバルセローナだ。フランスに抜けるにはもってこいのル―トだよ、国境の向こうは南フランスだ……」 達也はグラスを揚げて麻里に向かい 「良い旅を! ボン・ボヤ―ジ」 と乾杯した。 「君と道連れとなれてほんとに良かった……」  達也はワインを飲み干すと麻里の頬にワインに塗れたままの唇でキスをした。
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