フレンチプレスで抱きしめて

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 毎朝通い夫しつつ低血圧の私を起こして朝ごはんを食べさせてくれる。世の女子が聞いたら「あなたが神か!」と歓喜するような素晴らしいオトコだが、寝起きの私にとっては、私とオフトゥンとの仲を引き裂く大罪人だ。 「にゃーむぅぅ!」  鳴き声で抗議してみる。 「はい、コーヒー」 ?「ぶー……」  頬を膨らませながら、大きめのマグにたっぷりと注がれたコーヒーを受け取る。  膨らませた頬は、イシケンのゴッツイ人差し指によって直ちに「ぷしゅー」と凹ませられ、私は素直に着座した。  ベーコンエッグの付け合せにはブロッコリーとトマト、スライスしたモッツァレラチーズ。  ドレッシングは、ゴマ油をベースに黒酢と醤油、食材に絡みやすくするための一工夫として、チアシードを投入したオリジナルだ。  パン皿には4枚切りのトーストが、私に半切。イシケンのお皿には1.5切。  朝が弱い私と、肉体労働者であるイシケンのベストバランスだ。  昭和の薫り漂う丸型のちゃぶ台にはクロスが敷かれ、なんなら花まで置かれている。  パーフェクト過ぎる朝の演出に私は思わず『女子か!』と叫びそうになる。 「今日はコスタリカの豆ですよ」  そう言ってイシケンは、マグから立ち上る湯気を鼻腔から吸い込み、コーヒーの薫りに陶酔するように、クッソエロい表情をする。  ホント、無自覚にこういう表情をしやがるのが困る。  母の遺言で私の「お目付け役」に大抜擢され、ストーカーまがいの衝撃的な出会いからスタートしたイシケンとの関係は、その後の諸々の出来事と、うっかり発情した私の「おてつき」によって、ストーカーから「恋人」に三階級特進した。  それはいい。それは実にいいことだ。? 問題は、イシケンが私にキス以上の事をしようとしないという点だ。  これは、26歳の女として、実にしょっぱい事実だ。噛み締めたトーストから溢れるバターの塩気よりも。
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