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「チカちゃん、お疲れ様。気を付けて帰ってね」
「チカさん、お疲れ様でした」
そういえば、昨日の夜も桜町駅でこんなやり取りしたよなと、2人並んで仲良く小突き合いながら階段に吸い込まれていく山岸さんと新藤くんの後姿を見て思った。
もやっとした灯りの高架の桜町駅。
折り返しの電車がホームにやってきて、扉が開く。
誰も出てこない深夜の田舎線。
その田舎線に乗り込み、窓に映る自分の顔を眺めた。
ロングシートの座席の真ん中あたりにドーンとふんぞり返って座っても、ガラガラに空いた車内では誰の迷惑にもならない。
窓ガラスに映る自分の顔は、年相応に疲れた様子で、キツイくせ毛をどうすることもできずに短くカットされた髪の毛と少々大きくてアンバランスな耳が見える。
これでイッシーちゃんみたいに背が高ければ、宝塚みたいと言えそうな気がするのに、ベスちゃんと同じぐらいの普通の背だ。
この髪の毛は伸ばして藤木君みたいになれる感じでもないし。
定期的に近所のパーマ屋のおばちゃんにカットしてもらうのが一番いい。
近所の1学年下の女の子の家が田舎のパーマ屋だ。
他のお店でカットしてもらったこともあるけど、しっくりこなかった。
折り返しの電車が桜町駅で停車すること数分。
時間になったら、発車だ。
このまま3駅乗ったら私の最寄り駅の無人駅に到着する。
窓から見える景色に灯りはあまりなく、桜町駅を出てすぐに見えた小さなビルと密集する民家はほどなくしてパラパラの民家になる。
国道を照らす灯りがぼんやりと見えて、そのまわりは田んぼだ。
ひとつ、ふたつと駅に停車しては、ほんの一握りの人を降ろしていく。
そして、私も最寄り駅で降りる。
本当は定期を見せないといけないのだろうけれど、もたもたと後ろの車両から出て歩いていたら、運転手さんは私のことなぞ構わずに電車を発車させた。
閉まったタバコ屋さんのシャッターの横を通り抜けて、パーマ屋さんの角を曲がり、竹やぶと畑の横を抜けて昔からある大きなお宅の塀沿いを少し歩くとやっと車が通れるほどの生活道路に出る。
小さな川というか用水にかかる橋を渡った先に数件の建売住宅。
そこが私の自宅だ。
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