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ヒロ君は明日から仕事だから、今夜、妹家族は帰ってしまう。
とはいっても、妹家族の家は桜町市なのだから、来週だって再来週だって妹が姪っ子を連れて帰ってくれば妹と姪っ子には会える。
そして、ヒロ君は私の中では頭のイカれたおかしな義弟だし、会えなくてもいっこうに構わない。
夕方、姪っ子と離れるのが惜しくて全然出掛ける用意をしない私から妹が赤子を奪った。
「あぁっ……私のみーちゃんがっ!!!」
「お姉ちゃんのみーちゃんじゃないっ! さっさとめかし込んで合コンの用意でもして未来の旦那をゲットしてこい。そして姪っ子を可愛がるよりも先に自分の子どもを作ってこい」
妹が毒舌だ。
「葉月、いくらなんでもそれは言い過ぎだよ。僕たちの子どもは世界で一番可愛いからチカちゃんだって舐めるように可愛がりたくなるに決まってるじゃないか」
「もー! ヒロ君はお姉ちゃんに甘いんだよ!」
プイっと怒る妹に微笑みを返すヒロ君。
そろそろ胸やけタイムが始まりそうな予感だ。
「葉月とほんの少しばかり似ているチカちゃんにはパンピーよりも甘いかもしれないけど、一番甘やかしてあげてるのは葉月だよ?」
ヒロ君の言葉に頬を染めてうろたえる妹。
バカバカしくなってきた。
まったりしていた居間のソファーから立ち上がったら、上の姪っ子のさーちゃんがテレビから目を離して私を見上げる。
くりくりの目が可愛い!
やっぱり焼肉、やめて姪っ子達が帰るのを家で見送ろうか。
「チカちゃん、バイバイ!」
可愛らしく手の振ってるけど、その手がバイバイではなく、しっしのカタチになっている。
……追い出されてる気がする。
姪っ子よ……。
がっくりきたまま、自分の部屋へと引きこもろうと思ったら母親がジッとこっちを見ていた。
「ナニでしょうか?」
「お持ち帰り、されてみてもいいのよ? 別に心配とかしないから」
「焼肉屋さんのお持ち帰りなんて聞いたことがないよ。今日の現場が中華料理だったら、餃子くらい持って帰ってくるんだけどね」
「はーっ。ダメだこりゃ。いい年して浮いた話のひとつやふたつ、ないのかしらねっ。ほら、あるでしょ、会社とかで。こう、目が覚めたら知らないベッドに寝ていたとか、キャーッ」
母よ、頭を冷やしたまえ。
それが娘にかける言葉なのか。
ワンナイトラブを推奨しないでくれ。
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