第1章

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 徳永隼人(とくながはやと)巡査。赤羽西署、生活安全課勤務。入職してから五年目の若い警官だ。  そして遠矢とは、隼人が五歳からの知り合い。  出会ったその日から、十七歳だった遠矢のことを、隼人は呼び捨てにした。片腕でつまみ上げられそうな小さな体で、目を野生の仔ライオンのようにギラギラさせて、王様が臣下を呼びつけるようにして、「遠矢」と。  今も隼人は当然のように「遠矢」と呼んだ。ぎゅっと心臓が締め付けられる。 「刺されたって通報があったけど、まさか、おまえがやったのか?」  怪訝そうに言って近付いて来る。建物の影に入り、隼人の顔がはっきり見えるようになった。  幼く見えることを気にしている丸顔。眉尻の高い、まっすぐな眉。眉頭と目の間が狭いのが、黒目の大きな瞳を勝ち気な印象にしている。小ぶりな鼻と、きゅっと結ばれた薄い唇。前髪がいつもよりちょっと左に向かって流れているのまで気付き、遠矢は自分がまじまじと顔を見つめていたことをやっと意識して、あわてて目を逸らした。  日が傾き始めた時刻、ビルの影になった路地の薄暗さの中で、隼人の男らしい顔立ちは、職務中の警官特有の凛々しさでもって遠矢の目に焼き付いた。  チビの王様は、遠矢を強く抱きしめた「あの日」を境に本当に遠矢の王になった。遠矢はいつだって隼人のまっすぐな視線の前に、全身全霊で平伏している。 「そ、そんなわけないだろ」  返事も忘れていた。取り繕うように返す。 「そこに凶器のバタフライナイフが落ちてる。発生は十七時四十五分てとこだな」 「ちょ、赤城さん! むっちゃ血出てますよ! 大丈夫すか!」  もうひとりの警官があわてて駆け寄った。隼人の先輩の浦部巡査だった。 「ああ、たいした傷じゃないよ」 「傷の程度は問題じゃないっすよ!」  浦部は遠矢から捻られた腕を引き取り、腰に下げた手錠を取り出して、男の両手首に掛けた。 「傷害の現行犯で逮捕する! 相手が悪かったな。この人は日本で一番強い警官だったんだ」 「ま……マジで……」  浦部が男を引き立てて行く。男は自分の行動がどんな結果を導き出すのか思い知るだろう。  やれやれ、と遠矢は息をついた。その瞬間。 「うわっ!」  思わず大声を上げていた。
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