第1章

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 遠矢は笑うしかなくなって、黙った。隼人はなんでそこまでお見通しなのだろう。  と、隼人は立ち止まる。通りまであと数歩というところだった。夕陽は向こうに見えるビルの隙間に紫がかったオレンジ色が残るのみで、周囲はほとんど夜に移り変わっている。街灯が灯り始め、路面店のウインドウから漏れる明かりで照らされた通りと、何の照明もない暗い路地とは、まるで別世界のようだ。  その薄闇の中、隼人は首を傾けて、抱えた遠矢の顔を覗き込んだ。遠矢の心臓は勝手に大きく飛び上がった。きちんとかぶった制帽のつばの下、凛々しい双眸がじっと遠矢を見つめた。星明かりのように遠い街灯の光を映した黒い瞳にあるのは、生真面目な懸念だった。 「……あんまり心配させんなよ」  子供の頃から一度も変わったことのない真剣さだった。隼人はいつでも遠矢に対して本気の感情をぶつけてくる。思わず息を飲む。くらり、と眩暈がする。惹かれる。強く。  駄目だ、こんな気持ち、持っちゃ――遠矢は自分を必死に抑えようとした。  だが、追い打ちを掛けるように、隼人はさっと首を伸ばした。そうして、 「……っ!」     
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