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横抱きにした遠矢の上半身をぎゅっと引き寄せたと思うと、遠矢の唇に、唇を重ねた。
唇の固い弾力とぬくもりが遠矢の思考を停止させる。ごく間近に迫った瞳が、帽子の影になりながらもきらりと光る。その自信と熱情とに満ちた輝きに、惹かれては駄目だと自分に言い聞かせていた言葉も、一瞬で消え去る。熱した鉄の上に落ちた一粒の水滴のように。本当なら胸を押しのけ、暴れて、すぐにもやめさせなくてはならないのに――。
遠矢にとってこれ以上なく完璧なホールド。手錠を掛けられるよりも遙かに体の自由を失わせる、必殺の一撃。
見つめ合いながら、隼人は遠矢の乾いた下唇を甘く食んで、ちゅ、と軽く吸ってからやっと、顔を離した。遠矢が呆然としているのを見て、凛とした眼差しに、とてもひとまわり年下には思えない、子供をなだめるような笑みを浮かべる。
「な。またこんなことしたくなったら、まず俺に言ってくれ。俺はいつだって遠矢を誰より思ってる。そんな気分、すぐに忘れさせるから」
双眸の笑みが、声が、いたずらっぽく艶を孕む。
「……もっといいことで」
かあっと頬が燃えた。遠矢は薄暗い影の中でさえ顔の赤味がバレるような気がして、必死に顔を背けた。
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