朝露

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  *  ……想いは雪花のごとく、しんしんと積もります――。  夜の空気に含まれる水分が花びらに降りると、しんと積もった心の雪たちが、内から引き寄せられるように花の表面に浮かんできます。  朝の太陽が昇る手前の時間、暗い闇に花弁を閉じていた花がそれをほどきはじめます。すると、花の心に積もった雪の想いと夜露が溶け合い、花びらを滑る朝露となって落ちるのです。  朝露が花弁に溜まった朝は、日の光に透けて消えるほどの、薄く微かな夢を花にもたらします。  その夢の中では、ひとりは寂しいだろうと声をかけてくれるかたが在ったような気がします。  ひとりがさびしいのではなく、あなたのいないことが寂しいのですと、花の中のどこかが答えます。  けれどそれは、夢想の中の幻の会話。自分がどうしてそんな答えをするのかも、朝靄に包まれて目を覚ます花は覚えてはいないのです。  凛々と一輪きりで咲く花は、そうして朝を迎えます。  おぼろげな記憶を夢に見て、目覚めるたびに花はほとほとと朝露を零すのです。  零れた朝露はただほとほとと、地面に落ちてその場を静かに湿らせるのでした。
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