鳥と花の約束

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鳥と花の約束

 息を吸うと体の内まで凍ってしまいそうなほど冷気の張りつめた、冬の朝でした。  鳥が一羽、山の近くを飛んでいます。見下ろす山はしんとして、辺りにひとけはありません。早朝の太陽はまだ昇りきらず、曇りの日差しは弱いものでしたが、薄く積もった雪は白々と輝いています。  ずいぶん長い間休みを入れずに飛んでいたので、鳥は疲れていました。眼下の山に川のせせらぎの音を聞き、ちょうど良いので喉を潤そうとその小さな川に羽音をたてて降り立ちます。  白い雪ばかりの地面の合い間にある小さな流れだけが、唯一動いているものでした。水面は流れがあるために凍ることはなく、けれどもひとたびその流れが止まったとしたら、たちまちに凍りついてしまいそうに見えます。  時折木々から落ちる雪がどしゃりと鳴って、この世界が静寂ばかりでないことを示します。川べりの岩や石は、曇った日差しだというのにすべてが白々と薄く輝いています。雪の反射のためかもしれません。  鳥は不思議なほど静かなその場所に、他に生き物はいないものかと辺りを見渡しました。  すると、鳥の降りたのとは反対の岸に小さな花が咲いているのを見つけました。鳥の小さな足でも、踏みしめればたやすく地面に触れられるくらいに、雪は薄く積もっています。そのうっすらとした白い煌めきの中に、細く頼りない花が顔を出しているのです。  それは、冷たく静謐な空間が切り取られて存在しているかのようでした。  花は一輪だけで、周囲に他の花がある様子はありません。たった一輪きりで咲いているのか、と鳥は思いながら、嘴を水面に向けました。きらきらと輝く清澄な水に目を細めます。
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