3.小さな紙を潜ませて―花名―

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塾に着くと、既に鍵が開いていた。もう先生が来ているのかもしれない。ゆっくり深呼吸をしてから、教員室の扉をノックすると、鉄の扉が尖ったコツコツという音を立てた。 「佐伯花名です」 あれ、返事がない。鍵をかけ忘れたのかな。 「先生?」 ドアノブに手をかけると、少し遅れて声が聞こえた。 「ん……、入っていいよ」 そっと扉を開けると、早川先生がソファから起き上がるところだった。 「起こしてしまってごめんなさい」 欠伸をしながら、早川先生はソファの隣をポンポンと叩く。 座れということなんだろうか。 「早くおいで」 私は早川先生の隣に、少し離れて腰掛けた。 「なんか佐伯って猫みたいだね」 「え、猫ですか」 「ほら、毛を逆立てて警戒してるみたい。何にもしないから安心していいよ」 「……はい」
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