1019人が本棚に入れています
本棚に追加
/1339ページ
授業が終わり、教室を出ていこうとする先生に、「先生、先生」と女の子たちが群がっていく。塾でも学校でも、若い先生には生徒が群がるものなんだろうか。高校でもよく同じような光景を見る。
どこにでもある風景。それを遠くから眺めているだけの私も変わらなくて、小さなため息をついてから、窓の外を眺めた。
彼女たちは、明らかに迷惑そうな早川先生を質問攻めにしている。内容までは聞こえないけれど、大体は想像がついた。
「しっかり復習をしておいて。僕のことは試験には出ないよ」
「先生冷たい」
むくれる女の子たちを無視して、早川先生はドアへと向かう。
授業中はそうでもないのに、授業が終わった途端、突き放した言い方をするんだと、少しだけ胸が痛んだ。
当然なのかもしれないけれど、先生だって仕事なんだから。
考えながらも、私は先生の背中を目で追ってしまっていた。
そのまま出て行くかと思った先生は、ドアノブに手をかけてから突然振り返る。私を見るはずなんてないのに目が合ったように思えて、ついさっと目を伏せてしまった。
しばらくして顔を上げると、先生はもう教室から出て行ってしまったあとだった。
彼女たちの気持ちがわからないわけではない。早川先生は、確かに魅力的に見えるから。
私は先生の指や声を思い出していた。
普段は誰にも興味を持たないようにしているのに、先生のどこか寂しそうで切なげな表情を見ると、つい手を差し伸べたいような気持ちになる。
そんな風に思っていると知ったら、先生はきっと彼女たちにしたのと同様な、興味がないという顔を、私にも向けるんだろうか。
――バカみたい、そんなことを考えるなんて。私と彼女たちと、先生から見たら何も違わないのに。
最初のコメントを投稿しよう!