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これで一安心ときみは息をつき、拘束されたぼくのうらめしそうな顔を拝んでやろうと覗き込む。思いと違い、ぼくが満足そうな表情を浮かべていたことが、腑に落ちなかったのだろうが、とりあえず不可思議な現象はこれで止まる。そう安堵していたきみにむかって、ぼくはこう言った。
「あの、少し(しめ)つけが弱くありませんか」
自分を縛るロープにすらきつさを要求するなんて、こいつはとんでもねぇ野郎だぜ、ときみは半ば感心しつつ、要求通りロープをさらに強く縛り上げてくれ、ついつい、おおぅふ、と呻いてしまったぼくにきみは言う。
「あの、申し訳ないのですが、家にあるものを固く(しめ)るのをやめて貰えませんか?」
「どうしてですか?」
「開けるときに困るんですよ。あんなにきつく(しめ)られていると」
ぼくは眉をしかめ、
「今のぼくには、きつく(しめ)ることだけが生き甲斐なんです。それをするなと言われてしまうと、ぼくは、ぼくは困ってしまいます」
あまりにも切実なぼくの様子に心を動かされたきみは少し考え、まぁ、不便なわけでもないし、いいかと思い、「金縛りだけやめてくれればいいですよ」と口にする。ぼくは「よかった」と呟いてから、申し訳なさそうに、
「あの、それとすみませんが、あともう少しだけこの縄を……」
久しく味わっていなかった拘束をもっと肌身に感じたかったぼくは、そう依頼する。きみはあきれ顔になりながらも、渾身の力で、思いっきり、遠慮なしに、容赦なく、これでもかと(しめ)てくれた。ぼくは思わず白目をむいて唇をかみ ており、気付けばこの世から、消えていた
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