沈黙は雄弁

4/5
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
客 「無言」 運転手「・・・・・・」 客 「無言」 運転手 「あー。ええと。すみませんね、声を荒げたりして。かんべんしてくださいな。  あー。それはそうと、お客さん。あのお・・・」 客 「無言」 運転手 「変なことを頼むけれど、気を悪くしないでくださいね?   その、やっぱり何かしゃべってくれませんか?   何でもいいから。そうだ。何でもいいんですよ。  なんていうか、これじゃあアタシは独り言を延々、くりかえしているみたいで。まったく、そんなカンジで。  いや、どうにも気づまりなのを通りこしてね。そうやって、だんまりを決めこまれると」 客 「無言」 運転手 「なんだか、怖くなっちまって。たまらなくって。  いや、怪談じみた話を言いだしたのはアタシだし。いい年をして大人げないってのは分かってるんですが。  その・・・さっきからの、お客さんの雰囲気っていうか。それが、その」 客 「無言」 運転手 「それがーーどうにも薄気味がわるい。気持ちがわるいんだ・・・」 客 「無言」 運転手 「アハハハハ。ハハハハハハハ!   ダメですかね? アハッ。アハハハハハハハハ」 客 「無言」 運転手 「・・・・・・」 客 「無言」 運転手 「・・・・・・どこまで続くんだろう、このトンネル。  おかしいよ。こんなに長いはずはないんだよ。  ここは。  こんなに長い道理は。ここが」 客 「無言」 運転手 「対向車だって一台も来ない! 後続車も!  おかしいよ。見えるのは壁面の、暗い灯りばっかりでーー先行車のテールランプも何も見えないなんて!   深夜帯にしても、こんなことってあるのか? こっちまで頭がなんだか」 客 「無言」 運転手 「なんだか、おかしな具合に」  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!