沈黙は雄弁

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運転手 「やれやれ」 客 「無言」 運転手 「まあ。どこでーーだったかな。  乗ったとたんに饒舌で。乗っている間、ずっと、陽気にしゃべりちらして。目的地に着いたとたん強盗に変貌して。  運転手の首すじにカッターナイフを押しあてたーーとんでもないお客の話もありますからねえ。  それにくらべたら、お客さんは紳士だ。紳士でいらっしゃる。あはははは」 客 「無言」 運転手 「ええと。そいつーー強盗のことですけれどね。  お客さんみたいに、一人で後部座席にいたのにね。  運転席との間にある、アクリル板の仕切り。ああ、この車にもあるけれど。そいつが、まったく役に立たなかったそうですよ」 客 「無言」 運転手 「いや・・・・・・するっとね。仕切りの隙間をすりぬけたって」 客 「無言」 運転手 「するっと。それにしても・・・・・・長いなあ、このトンネル。  どうしたのかなあ。  この前、来た時には、こんなに長く感じなかったんだけどな。  何だか、おかしいな。  おかしいな。  ええと。ちょっとーー何ていうか」 客 「無言」 運転手 「・・・・・・」 客 「無言」 運転手 「厭だなあ。  変な気分になっちまう。  さっきから無線も入らないし・・・。  いくらトンネルのなかだといってもーーおかしいな。 おかしいじゃあないか。くそ!」  
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