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慣れないことをして鼓動が早くなる。手を繋いで歩くなんて、元カノ達ともしたことがない。
否、弟達が幼いとき以来か……
ったく、なんだよこのムズ痒い感じは。
隣からクスッと云う小さな笑い声が聞こえ視線を向けると、歩きながら頬をピンクに染め嬉しそうに微笑む様子にドキっとした。
「……可愛い……」
「はい?」
何を口走ったんだッ!?
慌てて掌で口を隠して無かったことにしようと目論んだが、泉さんが訝しげに俺を見上げてるのが視界の端に写る。
あ"ぁぁぁ~……くそっ!
髪を掻き乱し、執拗にこちらを見る泉さんに観念した。
「いや、その……着物、似合ってる」
今日の泉さんは、髪型はふんわり結い上げてあって、大きな白と青の市松模様に花や変わった絵が描かれたレトロな着物に、白茶地に朱色の亀甲模様なんかの帯を合わせたモダンな着物姿。
大正レトロって云うの?古い木造建築の多い温泉街に似合う格好だった。
しどろもどろで呟く俺に、ウフフと笑った。
「ありがと♪……これね、おばあちゃんのお古なの。結構気に入ってるからそう云ってもらえて嬉しい」
無邪気に喜ぶ彼女に足取り軽く俺も笑みを浮かべた。
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