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店に入って俺は重大な見落としに気付いた。
「スマンッ泉さん!着物じゃあ焼肉屋はダメだ。他の店に変えよう」
席を立とうとする俺をキョトンと不思議そうに見上げた。
「なんで?」
「そりゃ~油跳ねとか匂いとか。着物が汚れるじゃんか。それは大事な着物なんだろ?」
すっかり忘れてた。単純に美味しそうに肉を頬張る泉さんしか頭になかった。
外出する時は着物だとわかってたのに、なんで汚れやすい焼肉を選んでしまったんだ。
しかも気に入ってる着物なら尚更イヤだろうに。
そんな俺とは対称に、余裕の笑みを浮かべた泉さんは巾着バックをゴソゴソ漁り出した
「ウフフ♪そんなに慌てなくても大丈夫よぉ。ほら、コレがあるもん」
ジャーン!と広げて見せたのは、青いプリント柄の割烹着。
「コレね和装用なんだけど、撥水加工の優れものなの。丈も長めだし、タレ付きお肉を膝に落としても平気!」
「用意がいいんだな……」
安堵する俺に割烹着を着ながら「うん。着物のせいで食べたいもの我慢したくないもんね」と笑った泉さんは、少し俯いて呟いた。
「気遣ってくれて、ありがとう……」
「ん?何か言ったか?」
聞き取れずに尋ねると、首を振り「何でもないよ」と赤らめた顔で応えた。
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