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"カランコロン"
低めのカウベルの音が響く。
入って左側は身長程のアンティーク煉瓦の壁。
高めの天井に向かって黒いパイプが見えることから、この裏は薪ストーブなのだろうと予想した。外に煙突があったしね。
左斜め前方はカウンターと厨房。右側は同じくアンティーク煉瓦で出来た腰壁。
そこは十数人座れる大きなテーブルがひとつ
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
糊の効いた白いシャツと黒のギャルソンエプロンを着けた若い男がにこやかに聞いてきた。
「二人」
「畏まりました。カウンター席でよろしいでしょうか」
「あぁ」と頷くのを確認すると「こちらです」と男の後に付いていった。
予想通り煉瓦の壁の裏は大きめの薪ストーブがあった。
奥にはグランドピアノと壁に巨大なモニター
そこには字幕の付いたセピア色の洋画が映し出され、BGMはジャズ
北欧風の広い店内に置かれたテーブルは、ゆったりと座れる距離で配置され、どの通路もすべて広くとってある。
樹の温もりを感じる無垢のカウンターは車椅子でも大丈夫なようにテーブルと同じ高さ。
テーブルの配置やデッキのスロープ、大きな扉、段差の無いフラットな床などをみると、この店は車椅子や高齢者など配慮して、どんな人でも安心して入れる店と云うのがわかった。
「いいですね、この店」
「あぁ。嫁さん連れてきたら喜ぶよ、絶対」
居心地の良い店内とどんな人にも優しいデザイン。きっと料理も旨いに違いない。
その証拠に月曜にも関わらずテーブル席は殆ど埋まっていた。
店の名前の『Parantua』はフィンランドの言葉で"癒される、癒します"と云う意味だそうだ。
グランドピアノは、ここの奥さんが月一でミニコンサートを開く為の物 。仲間を呼んでセッションもすると云う。
「主人の美味しい料理と音楽。そして居心地の良い落ち着いた店内で普段の疲れを癒しますよ」
とカウンターの向こうで30代前半の奥さんが、茶目っ気たっぷりの笑顔で教えてくれた。
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