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「お話の最中申し訳ございません。馨さんのご両親ですよね……
はじめまして。私、金沢湊と申します。いつもふたりにはお世話になってるので、ご挨拶をと思いまして」
横柄な態度の親父さんは無表情で、俺の頭から爪先まで値踏みすると、一言口にした。
「……仕事は何をやってる」
「公務員です。市役所の商工観光課に勤務してます」
笑みを張り付けたまま、冷静に返したモノがお気に召したようだ。
自分で云うのもナンだが、黒髪短髪しっかりしたガタイと安定した職種。
それだけでこの年代の人からは好まれる。
好きでやってるだけなのにな。
親父さんは威圧感をそのままに表情を緩めた。
「ほぅ……一杯付き合いなさい。
美絢子、金沢くんに席を譲ってお前は先に帰れ。ったく気が利─「いえ、このままで結構です。
……猪亦さんの声は良く通るんですね。実は困るんです。聞きたくもない話が、強制的に耳に入り込んできて」
黙れ。それ以上云わせねぇよ。
俺の言葉に、隣のお袋さんが「……だから云ったじゃない……」と小さくゴチり、馨さんは周りに目を向け申し訳なさそうに頭を下げた。
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