【其の9】空回りするオカン

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タタタタッタタンッ!カタカタカタタンッ!ダダンッ! キーボードを激しく叩くタイピング音に、ビクビク怯えながら隣の席の加藤は声を掛けた。 「あの~……湊先輩宛に電話が……」 「あ"ぁ?……チッ、誰だよ」 機嫌の悪い顔でギロリと睨まれ、『ヒッ!』と硬直した加藤の声は裏返った。 「ッ!さ、3番に漁協の川田さんからですッ!」 「……わかった」 眉間の皺を更に寄せ、深く息を吐いた。 川田のじぃさん、なんで今日電話寄越すんだよ…… 夏祭りに出店する販売ブースの説明会は6月にある。 その問合せだったが、お喋りな川田さんの話が終わったのは30分後だった。 やっと終わった……くそっ!時間が無いってのに…… 時計を見て又イライラとしながらキーボードを叩き出した。 恋心を自覚した日から2週間以上経った。 『覚悟しろ』なんて気合い入れたのに『覚悟』するのは、彼女の過去を知らない俺の方だった。
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