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ふたりがのんびりしてると、和明がドア越しに声を掛けた。
「泉いる?休憩中に悪いけど、お客さんが増えたからホールに出てくれ」
「はぁい、行きま~す」
ホールでは来店したばかりの大学生らしき男達が、足湯の魚に興奮して大騒ぎしていた。
・・・5人か・・・
おしぼりとお冷やを人数分出し、テーブルへと運ぶ。
受けた注文を和明に伝え、ドリンクの準備を始めた。
「泉ちゃん、お勘定お願いしてもいいかい?」
カウンターにいた、お土産屋の三宅洋子70歳がにこやかに美絢子を呼んだ。
近所の店の三宅はほぼ毎日来る常連さん。
注文するのはいつも決まってる。チーズとグリルチキンのホットサンド。それと珈琲。
「洋子さん、もう帰るの?」
「そろそろ帰んないと、たまちゃんに嫌味言われちゃう『お義母さんは呑気でいいですねっ!』ってさ」
『たまちゃん』とは三宅家のお嫁さん。
伝票片手にヘラッと笑う美絢子に、三宅は大袈裟に「お~怖っ」と両腕を抱き締めブルッと震えて見せた。
「そうなの?呑気、最高なのに。私も呑気だよぉ」
「うひゃひゃひゃ♪そーだねぇ呑気は長生きの秘訣なのにねぇ」
「そーだよ、洋子さん。120までイケるよ♪」
「イケるかい?うひゃひゃ♪泉ちゃんとお喋りしてると元気が出るよ」
呑気な話を続けながらお金を受け取り、領収書を手渡す。
バイト時代からほぼ10年。
常連達は美絢子の斜め45度の会話にも馴れたもので、邪気のない会話と笑顔に癒されていくのだ。
美絢子はいつも通り話ながら入り口まで一緒に歩き、扉を開けた。
「にゃはは~♪また明日ねぇ」
「はいよ、又来るよ♪」
コロコロ笑いながら帰っていく三宅に、ヒラヒラ手を振りながら「ありがとうございましたぁ」と見送った。
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