【其の2】和風カフェのポヤポヤ

9/13
632人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスティー、コーラです」 "足湯"のテーブルにドリンクを置くと、ガイドブックを見ていたひとりが美絢子に声を掛けた。 「あ、ちょっと聞きたいんだけどいい?」 「はい、何でしょう?」 「和風旅館の『華岡』って歩きでどれくらいかかる?」 (おばぁちゃんちのお客さまか……) 『華岡』は美絢子の母、千尋の実家。 恭兵に代変わりした時に改装。 隠れ家的な雰囲気の純和風旅館『華岡』 客室は全20室。 今は本館、離れそれぞれ客室露天風呂が設けられるほかに、大浴場と露天風呂があり、そこそこ繁盛している。 客層が女性グループや高めの年代が多い中、若い男性グループとは珍しい。 美絢子はニッコリ笑みを浮かべ、バス停の方角を指差しなが説明する。 「表通りのバスに乗れば10分位で着きますよ。料金は200円だったと思います」 「……いや、歩いていこうかと……」 美絢子の斜め上へズレた返答に男達は苦笑いしたが、美絢子は全く気にせずに顎に指を当て、斜め上に視線をさ迷わせる。 「あぁ、歩きかぁ~……3~40分ぐらいかなぁ……表通りを真っ直ぐ行った渓谷側です」 「結構歩くんだ……」 「やっぱり周りに飲み屋とか無さそうだしな……」「旅館に行く前につまみと酒買ってくか……」 どうやら夕食後の部屋飲みの話らしい。 確かに若い男達にとって、何もない旅館の秋の長夜は退屈だろう。 ぶっちゃけ、美味しい食事と温泉だけ。 カフェスペースはあってもラウンジはない。 華岡は温泉街から離れた高台にある為、飲みに行きたくても周辺に飲み屋もコンビニもない。 この付近で調達した方が無難だろう。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!