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「お待たせしました。アイスコーヒーとアイスティー、コーラです」
"足湯"のテーブルにドリンクを置くと、ガイドブックを見ていたひとりが美絢子に声を掛けた。
「あ、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
「はい、何でしょう?」
「和風旅館の『華岡』って歩きでどれくらいかかる?」
(おばぁちゃんちのお客さまか……)
『華岡』は美絢子の母、千尋の実家。
恭兵に代変わりした時に改装。
隠れ家的な雰囲気の純和風旅館『華岡』 客室は全20室。
今は本館、離れそれぞれ客室露天風呂が設けられるほかに、大浴場と露天風呂があり、そこそこ繁盛している。
客層が女性グループや高めの年代が多い中、若い男性グループとは珍しい。
美絢子はニッコリ笑みを浮かべ、バス停の方角を指差しなが説明する。
「表通りのバスに乗れば10分位で着きますよ。料金は200円だったと思います」
「……いや、歩いていこうかと……」
美絢子の斜め上へズレた返答に男達は苦笑いしたが、美絢子は全く気にせずに顎に指を当て、斜め上に視線をさ迷わせる。
「あぁ、歩きかぁ~……3~40分ぐらいかなぁ……表通りを真っ直ぐ行った渓谷側です」
「結構歩くんだ……」
「やっぱり周りに飲み屋とか無さそうだしな……」「旅館に行く前につまみと酒買ってくか……」
どうやら夕食後の部屋飲みの話らしい。
確かに若い男達にとって、何もない旅館の秋の長夜は退屈だろう。
ぶっちゃけ、美味しい食事と温泉だけ。
カフェスペースはあってもラウンジはない。
華岡は温泉街から離れた高台にある為、飲みに行きたくても周辺に飲み屋もコンビニもない。
この付近で調達した方が無難だろう。
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