【其の3】はじめまして。さようなら

2/22
631人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
「お先に失礼します」 「あぁ、お疲れ様」 湊はそう声を掛け顔を上げた (なんだ。残ってるのは俺だけか) 随分集中していたようだ。 誰もいない部屋に少し驚き、時間を確認すると時刻は7時を少し回ったところだった。 もう少しまとめたら帰ろう。 凝り固まった肩と首を回し、ぐぅぅぅんと背筋を伸ばした時だった。 「あれ?まだ残ってたんだ」 河合課長がクリアファイルで(あお)ぎながら観光課に入ってきた。 「後、どれぐらいで終る?」 「30分ぐらいですかね」 湊はキーボードを打つ手を止めずに言った 「そうだ。湊、お前この後暇だろ。飯付き合え」 確かに暇だ。 彼女と別れてから1ヶ月経つ。 湊は『女が欲しい』とも思わず、誰にも邪魔されない充実したお一人様ライフを日々堪能している真っ最中だった。 「河合課長?決め付けないでくれませんか?」 しかし、A型の湊はイレギュラーな事はしない主義。 何事にも予定を組む。 因みにこの後は、真っ直ぐ家に帰ってコロッケを揚げる。 これは昨夜作った肉じゃがの残りを、コロッケ用にパン粉を着けて下準備してきた物だ。 後は作り置きしてある和え物やサラダをつまみに、酒を飲みながら借りた映画を観る予定・・・
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!