その先もずっと

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吹きさらしのホームは寒かったけど、ガラスで囲われた待合室に入ると少しは暖かい気がした。 「誰もいないね。そうだ。今ここでプレゼントあげてもいい?」 「いいよ」 ベンチに座って、背負っていたリュックからクリスマスカラーの包装紙でラッピングされた箱を取り出した。 そういえば、叶はバッグを持っていない。スマホと財布をズボンのポケットに突っ込んでいるだけ。 もしかして、私へのプレゼントなんて用意していないのかもしれない。 Loveと書かれたマグカップを見ると、叶は嬉しそうに笑ってくれた。 「これを見るたびに真尋の顔が目に浮かんでニヤけそうだな。ありがとう。大事に使うよ」 「あ、でも、ご家族の前で使うの、恥ずかしいよね? ゴメン。今頃気付いた」 きっと弟くんにからかわれるだろう。照れ屋の叶にはかわいそうかも。 そう思ったのに……。 「別に。家族にはもう話してあるから」 「え? 何を?」 「ゆくゆくは真尋と結婚したいって」 「え⁉」 叶の言葉の意味がじわじわと脳に染み渡っていく。 だんだん顔が赤くなってくるのが自分でもわかった。 そんな私を赤い顔の叶が探るように見つめていた。 「だから、真尋もそのつもりでいて。ちゃんと自分で稼げるようになったらプロポーズするから。……待っててくれる?」 胸がいっぱいで言葉が出ない。 コクコク頷くと、叶がホッとしたように微笑んだ。 「じゃあ、これはその約束のしるし」 右手の薬指に嵌められたのは、誕生石のブルートパーズがついた指輪だった。 「わ、綺麗! ありがとう」 「本当は学校でも嵌めてて欲しいけど」 右手の角度を変えてトパーズの輝きに見惚れる私に、叶はボソッと呟いた。 そうか。これはただの指輪じゃなくて、私が叶のプロポーズをずっと待っている証なんだ。 「じゃあ、部活の無い日はチェーンに通して胸にぶら下げていく。下着の中に入れて隠せば見つからないから」 頷いた叶の視線の先には電光板の時刻表示。 もうすぐ電車がくるはずなのに、ホームには私たちの他には誰もいない。 大人のカップルや家族連れは車で来るだろうけど、私たちみたいな中高生は電車かチャリで来るしかないのに。 「ねえ、どうして」 叶に聞こうとした疑問に答えるかのように、次の瞬間、夜空が光った。
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