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冬の体育館は底冷えがする。
去年、ウォーミングアップのメニューが冬用に変わったのは、いつからだったっけ。
まさか自分が部長になるなんて思っていなかったから、そんな細かいことまで憶えているわけがない。
明日から変えようかなと思いながら、用具室のドアを開けた。
「小田切さん、1年にもっとビシッと言った方がいいんじゃない?」
追いかけるように用具室に入ってきた室井くんがそう言うのも無理はない。
女子バレー部の今年の1年生には、先輩たちよりも早く来て準備をしようという気がないみたいだ。
部室に来るのも遅いし、着替えるのもおしゃべりしながらでのんびりしている。
結果、いつも私たち2年生がコートやボールを準備することになる。
「うん、そうだよね」
下唇を噛んでいた口を開いて、どうにか返事を押し出した。
わかっている。部長である私が1年生に舐められているからいけないんだ。
今日こそちゃんと言わなきゃ。
「麻生も彼氏なら小田切さんのこと、気遣ってやればいいのに。俺だったら」
「室井」
用具室の入口から尖った声が聞こえて、室井くんは言いかけた言葉を引っ込めた。
でも、その続きは簡単に想像できる。
俺だったら……代わりに注意してやるのに、とか?
入口に立って室井くんの名を呼んだのは叶だった。
麻生 叶は男子バレー部の部長で、中学時代からの私の親友。
そして、夏休みに入ってすぐに告白されて付き合い始めた私の彼氏でもある。
あれから5か月経つけど、私たちの間にこれといった進展はない。
元々、一緒に登下校していたし、メッセージのやり取りもしていたから、カレカノになったからといって何も変わらない。
毎朝、コンビニの駐車場の隅で待ち合わせして、おはようと挨拶して学校までの起伏に富んだ道を自転車で飛ばしていくだけ。交差点で信号待ちになったら少し話すけど、それ以外は無言で自転車を漕いで行く。
同じ教室に入って、それぞれ同性の友達としゃべって、お弁当を食べる。
あ、もちろん授業も受けて。
で、部活に出て、一緒に帰る。
私の家の前まで送ってくれるけど、叶は自転車から降りることなく、そのまま自宅へと帰って行くのも前と同じ。
親友と恋人の違いって、何かあるのかな?
最近、ちょっと疑問に思ったりもするんだ。
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