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少し遅れてドーンという音がお腹に響いた。
「花火⁉ クリスマスに? え? 叶、知ってたの?」
だって、そうとしか思えない。
私たちの真っ正面の夜空に黄色い花がパッと咲いた。
「特等席だろ? 寒くないし混んでないし、座ってゆっくり眺められる。花火が終わった途端みんな一斉に帰るけど、ここから見ていれば電車が混む前に帰ることが出来るし」
「ホント叶は頭がいいって言うか、先を読んで行動するって言うか」
感心する私のお腹にまた花火の太い音が響く。
「綺麗」
遠くに見えるイルミネーションと花火。これだけ離れているからこそ、2つの光の共演を写真に収められそうだ。
スマホを構えようとして目に入ったのは、さっき撮ったばかりの2人の笑顔。
それを見て、叶もフッと笑った。
「さっきは真尋のお願いを聞いてあげたから、今度は俺のお願いを聞いてくれる?」
「いいよ。何?」
スマホを構えたままの両手を膝の上に下ろして叶を見ると、予想以上に近くてドキッとした。
「キスしたい」
きっと私は無意識に目をつぶったのだろう。
叶の声と眼差しが甘いと感じた時には、もう唇が重なっていたから。
すぐに離れて行った感触に瞼を開けると、一瞬、叶と目が合って慌てて俯いた。
恥ずかしくて嬉しくて、顔が熱い。
「真尋?」
不安気な叶の声に今度はちゃんと目を合わせた。
「好き」
気持ちが溢れ出して言葉になった。
「俺も。好き」
またそっと重なり合う。
「ずっと好き」
「愛してる」
叶の声が私の口の中に消えて行く。
こんなに愛しいから触れたくなる。
そうか。さっきのカップルたちもそうだったんだね、きっと。
叶は花火の音が止むまで、何度もキスを落とした。
これが私たちの初めてのデートの思い出になるんだね。
クリスマスのイルミネーションと、花火の音と優しいキス。
「次のデートは初詣に行こうか?」
「うん!」
きっとこうやって素敵な思い出が増えていく。
END
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