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「何?」
室井くんが叶の方を向いて尋ねると、叶は腕組みをして室井くんを睨んだ。
「おまえこそ何? 真尋に何か用?」
「気になる? こんな狭いところで俺たちが何してたか」
意味ありげにニヤッと口角を上げた室井くんは、じゃあねと私に片手を上げて用具室を出て行った。
取り残された私を叶は入口に突っ立ったままじっと見つめている。
それが酷く気詰まりだった。
「室井に何かされた?」
「へ? 何にも」
「じゃあ、何か言われた?」
「……女バレの1年がたるんでるから……ちゃんと言った方がいいよって」
「それだけ?」
「それだけ」
叶は私の代わりに1年を注意したりしない。私が注意しなければ意味がないとわかっているから。
部長同士だからって頼っちゃいけない。
恋人だからって甘えちゃいけない。
わかっているけど、不甲斐ない私は時々叶に寄りかかりたくなってしまう。
「あ、ごめん。何か取りに来たんだよね?」
叶が入口に立ったままなのは、ボールかごを出そうとしていた私が邪魔なのかと思ったのに、叶は首を横に振った。
「ただ、真尋が心配だっただけだ」
ほらね。こんな言葉を掛けられたら、ついつい甘えたくなっちゃうんだ。
「ありがとう。でも、私、頑張るから。今日こそビシッと注意する!」
「あー、うん。そっちも心配だったけど」
「え?」
「何でもない」
ハアッと息を吐いた叶は何か言いたげに私を見たけど、何も言わずにコートに戻って行った。
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