勿忘草と、妖怪の慶び

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「嫌よ」   「やろぉなぁ」    隠は相槌を打って、何故か同意するように頷いている。   「どっちの味方だよ」   「ありゃ、無理に引き剥がすしかないわ、思い出と同調してる分、ちょっとやそっとじゃ、動かんし」    鼻をひくつかせて、目つきを鋭く睨みつけている。  どうやら隠の過敏な鼻には、かなり酷いらしい。  もしかすると"丙"くらいまで憑依が進んでいるのかもしれない。   「とにかく僕がそちらに行きます」   「来ないで!」    突然、声を張り上げる紅音さんに僕は踏み出そうとした前脚を空中で止めた。   「嫌がってる、離れたくないって震えてるわ。貴方、私達を離そうとしてるのね」   「これやから同調すると面倒なんだよ」   「うるさいな」    隠がいると、話がなかなか前に進まない。   「紅音さん、優希さんも、お母さんも心配してるよ? ちゃんと会話もしてないんじゃないかな? どんな顔して紅音さんを待ってるかわかる?」   「優希? お母さん……」    一瞬、紅音さんの緊張が綻ぶのを感じとったが、それも束の間。   「こりゃだめやわ! 早くあの花、取ってこい!」    隠が僕の背中に乗ると、頭に猫パンチを何発も当てて来る。  鬱陶しいが、隠は無駄にそんな絡みをしてこない。  そして隠の予感が的中すると、僕は同時に紅音さんに向けて飛び掛かった。  紅音さんから穢れが溢れ出て、『馬鹿』の重低音な声が響く。   『ハナレタクナイ』    同時に僕は穢れの中へ、体を飛び込ませて、花を口に入れると、穢れから身を引いた。   「ああああかん! 穢れに飛び込むとか阿呆か! 鳥肌が!」    隠は尻尾を大きく丸めて、体毛もわずかに立ち上がっている。  余程、恐ろしかったのだろう。  その気持ちはわかる。   「やだ! 持っていかないで!」   『アカネ……ハナレタクナイ……』    二人は引き離されたのを嫌がるように、そして引き合うように紅音さんがずりずりと近寄って来る。   「ごめんね、こんなことしたくはないけど、君のしてることは間違ってるから」    僕は体に目一杯の力を込めた。  そして白い光を纏いながら、願立つ。   『火之迦具土命の名に於いて、清め給え』    瞬間、日向家は光に包まれた。          
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