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「それと、紅音さん」
僕は真っ直ぐに紅音さんを見る。
そして紅音さんは涙を流しそうな緩んだ表情で、僕を見つめる。
それは人質を取られたような気分なのだろうか、と状況を照らし合わせながらに、僕達が悪役になっている気がしていた。
しかし、ならばこそ、悪役を買って出よう。
「この子は僕が持って帰ります。浄化したとはいえ、行いへの戒めは必要なので」
「でも--」
紅音さんは気付けば、幾粒もの涙で頬を濡らしていた。
頬を伝った涙は、床や紅音さんの手の平で弾けて、それでも留まることなく、頬を伝っている。
「もしも会いたいのであれば、優希さんを通して、うちに来て下さい」
僕はそれを言い残すと、優希さんにアイコンタクトを送り、階段を降りた。
隠も、「じゃあな」と告げて、僕の後をついて来る。
僕達は、紅音さんの心にしこりを残したままに扉をくぐり、日向家を後にした。
あれ程に足れ流れていた穢れはなく、家に明かりが灯り、中からは紅音さんの泣きじゃくる声だけが聞こえてきていた。
秋風はしみったれた僕の心には、少しだけ沁みてくるようで、心の痛みを季節のせいにしながら僕達は帰路についた。
響き渡る泣き声にお母さんはかける言葉を見付けられないでいる。
私も、何を言えばいいのか。
いや、わかってはいるのだけど、言葉をかけるタイミングを探していた。
「どうしてこんな酷いことするの--」
掠れて聞き取りづらいけど、確かにお姉ちゃんの苦しみが言葉になって出てきている。
こんなに痛ましいお姉ちゃんは見たことがない。
それを見ているだけで、私も胸が締め付けられた。
「せっかく本当の友達が出来たと思ったのに」
お姉ちゃんの涙は更に勢いを増した。
無尽蔵に溢れる涙が、私の喉まで出ている言葉を、後押しする。
早く言わないと、どんどん苦しんでしまう。
私はお姉ちゃんの涙で濡れた手を握りしめて、お姉ちゃんを抱きしめた。
「大丈夫。私達がついてるよ。それに聞いたでしょ? 『もしも会いたいのであれば』って」
そう、きっと、会えるのだ。
どんな形かはわからないけど、また会えるのだ。
きっと今よりは良い形で。
それでしかお姉ちゃんの穴が埋まらないことを、明さんは知っていたんだ。
「明日、行こう。会いに。私も一緒に行くから」
またあの喫茶店へ。
今度はお姉ちゃんと一緒に。
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