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「とにかく。その格好はまだ早いよ」
「何を言うかと思えば。この俺にかかれば、変装の一つや二つ、なんてこたぁないっしょ。それより明さん、仕事が入ったんなら教えてくれな困るでしょ?」
そう言って珈琲を煽る。
僕は熱いものが苦手なので、少しずつ冷やして飲むのが好きなのだが、彼は--
「ぷはぁ--」
あっという間に飲み干した。
なんとも、圧巻の光景だ。
「いやぁ、いつ見ても隠さんの飲みっぷりは見事だねぇ」
なんてマスターが調子良く誉めるものだから、彼の陽気に拍車を掛ける。
「いやぁ、この姿だと飲めしまうんで、ついね。つい」
「ふぅ。それで、仕事、手伝ってくれるの?」
僕のその言葉に珈琲の残っていないカップの底を舐め回すように覗き込みながら、「内容次第」とあっけらかんに答えた。
「明君を困らせちゃ駄目だよ? 隠さんは自由気ままなところを直さなくちゃ」
マスターが新しく珈琲を注ぎに来て、軽く指摘する。
僕が内心思っていることを、さらりと言ってくれて、彼もマスターの言うことだけに「むぅ…」と唸りながら、こちらに体を向けた。
「わかったよ。手伝うけん、ひとまず教えてくんね?」
「私にも教えてくれるかな? 他人事ではないわけだしね」
マスターも、立ったまま、こちらに視線を送る。
どうやら、話さなくてはいけないみたいだが、都合がいいことに他には誰もいない。
今、伝えても支障はなさそうなので、僕は一つ咳ばらいをして、仕事の話に取り掛かった。
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