前兆

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前兆

 卵の生臭い匂いに蒸せ返りそうになる。 「スッゴい臭いですね?」  卵についたウンコを洗い流してると赤城が吐きそうな顔になる。 「そんなんでやってけるのか?」  近藤課長に言われて赤城がへこんでいる。 「もう、やめようかなぁ?」 「いきなり?勘弁してよ?」  俺は思った。  こっちはボーナスももらえないのに。  教育係はなかなか大変だ。  このまえ辞めた真野ってハーフっぽい女子可愛かったな?  実は真野はスペイン人なのだが波多野は知らない。マノはスペイン語で『手』を意味する。 「波多野しっかり教えろよ!?」  工場だから近藤課長が大声で言った。 「分かりました」 「赤城くんもウンコ流すのやってみる?」  ホースの水を止めていった。 「イヤァ、僕はいいですわ。アナタがやってください」  俺は汚卵担当かよ!?新卒はキレイなところばっかりやっていいな?派遣は汚いゴミ掃除、新卒や社員には飲み会とかもある。  来年、黄金のウンコを食べさせるのは赤城にしようかな?イヤ、派遣だったらそんなに金もってなさそうだ。御偉いさんに食べさせてやろうかな?  バケツに溜まった殻を捨てに行ってもらおうとしたら赤城がイヤそうな顔をした。 「重そうですね?」  コッチは腰痛持ちだってのによ! 「重いよ?そりゃあ」  カラはスペイン語で『顔』って意味がある。  エプロンを脱いでバケツを担いで焼却炉に向かう。あんまり遅くやってると殴られる。  仕事を終えて食堂でボス缶コーヒーを飲んだ。  金がないからいつもは無料の水かお茶だが、たまにはいいだろ?  木嶋が死んでしがらみが消えた。  アイツはいろいろ仕事を持ってきてくれた。  脅されたこともあった。  自動ドアが開いて赤城が入ってきた。 「やぁ、ここにいたのかい?」 「帰ろうとしてるところ」  隣に座って溜め息を吐いた。 「どうだ?やっていけそうか?」 「まぁ、なんとかね?」 「ウンコにビビってたくせに?」 「そりゃあウンコが好きですって人はいないでしょ?」 「そりゃそうだ」 「2016年に起きたAIの事故を覚えていますか?」  赤城が唐突に言った。  オートパイロットの作動中に高速道路を横切ろうとしていたトレーラーに衝突して死亡した。  亡くなったのは赤城の父親らしい。 「そりゃあご愁傷さまだね?」 「波多野くんもご両親を亡くしてるんでしょ?」
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