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01-01 強い力には犠牲がつきものだよね。
――その日は、とても暑かった。
三十度を超える真夏日。エアコンのない自室は窓を開けていても汗が噴き出してきて、からんころんと、氷とグラスのぶつかる音が何度も耳に届く。結露してグラスの表面についた水滴が滴り、ガラステーブルの上には小さな水たまりが出来ていた。
リビングにはエアコンがあるため快適な空間を得られるが、あまり家族には見られたくない。タブレット型コンピューターを持って、ソファに腰を下ろしながら指をスライドさせて画面に表示されている文字の羅列を読む。
――苦い。
アイスコーヒーの味ではない。過去に自分が書いた文章が苦い。
いつだっただろうか……多分、四年前くらい。高校を卒業して間もない頃だ。そのときネット小説にハマっていた俺は「これ、俺でも書けんじゃね?」とネット作家に手を出した。
いくらかの下調べ――基本的な文章作法や物語の作り方などなど――をして、最初に書いたものはそのときの俺が読んでも、それはもう酷い有様だった。
そんな一作の犠牲を経て書いたのがこの小説。タイトルは『終末世界と壊れかけの救世主』。
「アンチテーゼ……はは」
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