志麻准教授の本とフリマ

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密閉された、ジャングルのように鬱蒼としている研究室のドアと窓を大きく開けて、光と風を入れる。外の空気の方が、少しだけ冷たい。 振り返って研究室を見ると、今まで溜め込んできた数々の本が深呼吸をしているようだった。 その中から、もう読んでいない本や使わなかった本を選んで廊下に出していった。想像をはるかに超え、山は高くなっていった。 桐子さんが帰省してから、時間が余って仕方がない。自分も実家に帰ろうかと思い立ったが、どうせ帰っても『いい加減、結婚しないのか?』とどやされるだけだ。わざわざ疲れに行く必要もない。 そんなことよりも、同じ『疲れること』なら黙々と掃除をしていた方がずっとましだ。 「あれ、志麻っち先生いんの?」 「関君か、こんにちは」 研究室をひょっこり覗き込むように、僕のゼミに所属している4年生が顔を見せる。この暑い中、スーツを着てきっちりネクタイもしめている。 「関君、就活ですか?」 「そんなとこです、面接近いから就職支援の人に練習付き合って貰って。あと、学校来たついでに、サークルの顧問に休日の施設使用の判子貰いに来たんです」 「それは大変ですね」 「まあ、学生の本分ってやつですね」 「元気なのは良い事です、その調子で卒論も頑張ってください」 「そういう笑えないこと言わないでよ……先生、これどうすんですか?」 これ、と言った関君が見た先は、廊下にうず高く積まれた捨てる予定の本があった。 「大学の研究費で買ったやつは図書館に返しに行くんですけど、それ以外が多くて困ってます」 「売ったりしないんですか? 古本屋とか」 「古い本ですからね、売っても二束三文以下でしょう。持っていくのも大変ですし」 「こんなにたくさん、もったいないですね。なんか、先生の歴史を感じる」 「本を読むしか能がないですからね」 「ふーん……。あ、そうだ! 売ればいいんですよ」 「さっきも言ったじゃないですか、古本屋に持っていくのは無駄だって……」 「学校の中で、ですよ」 「え?」
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