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ゴミ箱から視線を逸らし、名取君を見ます。
名取君はこちらに足を向ける形で眠っているので、頭の先から足の先まで自由に眺めることができます。
小麦色に焼けた肌。さらさらとした髪の毛。ぎゅっとつぶられた眼。すらっとしたお鼻。短い眉毛。柔らかそうな耳。頬。だらしなく開かれた口。
がっしりとした身体。割れた腹筋。くびれたお腹。おへそ。乳頭。美味しそうな太もも。舐めたい足の裏。そして、無防備に開かれたあそこ。
私は記憶に留めようと必死でこの景色を脳内に焼き付けました。
食べてしまいたいです。飲み込みたいです。
彼の涎も、鼻水だって、尿だって、彼に纏わる全てのものを。
彼は、食べるとどんな味がするのでしょうか。彼の太ももは、噛むとふわふわとしたスポンジのような食感がするのでしょうか。それとも身がしまった鶏肉のような味がするのでしょうか。
顔ならどうでしょう。彼の唇は、焼き鳥の鶏皮のような食感なのでしょうか。それとも煮鯛の唇のように、ジューシーなのでしょうか。
──彼の肉を、少しだけもらうことはできないのでしょうか。
どうにかして、食べられないでしょうか……。
叶わぬ夢を想いながら、私は双眼鏡を一旦テーブルに置き、砂糖がたっぷり入った甘いコーヒーを飲みました。
恋は、まるでビターチョコレートのようだとか、若い女の子が言っているそうですが、それは違うでしょう。
苦味があったら、その苦味が完全になくなるまで、甘味を増やせば良いのです。
恋のライバルがいても、好きになった相手が私のことを嫌っても、どんなに抵抗されても、力づくで捩じ伏せて、強引に距離を詰めて、恋を成就すれば良いのです。
この砂糖だらけのブラックコーヒーのように。
もう一度双眼鏡を手に持ち、部分ごとに五分間、名取君の観察を続けます。
彼を監視できるこの店は、最高です。
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