蜃気楼

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A男は人通りの多い道を歩いていた。 気温は真夏日と言うにふさわしく、蜃気楼がゆらゆらと揺れている。 「すっげー人混み!」 A男は人混みの中で叫ぶ。 真夏日だというのに冬用の制服を着ているA男は汗一つ流していない。 「あ。」 A男の目に映ったのは、A男の記憶の中より少し大人びたB子だった。 B子は暑そうに襟元をパタパタと仰いでいる。 「あー……暑い。」 「そうだね。」 「頭バカになりそ……」 「お前は元からだろ?」 A男はクスクスと笑う。B子はしかめっ面のまま「まぁバカなんだけどね」と呟いた。 蜃気楼はまるで何かを誘っているように揺れている。 B子は人通りの多い道を抜け、1つ息を吐いた。A男はB子の横で微笑んでいる。 「あっ!花萎れかかってんじゃん!」 持っていた花が萎れ始めていたことに気が付いたB子は、急いで道端に置いてある花瓶代わりの瓶に花と水を入れた。 A男の後ろには蜃気楼が迫っている。 B子は手を合わせ、目を瞑る。 A男の背中に蜃気楼が触れる。 B子が目を開け、古い花を新聞紙に包んで帰ろうと元来た道を向く。 蜃気楼がB子の目の前で揺れている。 A男は蜃気楼に包まれる。 B子はそこにA男がいることに気付かず、大通りに向かって歩き出す。 「B子──」 A男の声はB子には届かず、蜃気楼の中へと消えていった。
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