ワナな一日

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「早く飲ませてあげてください」と彼女が叫ぶように言うと、偵川は咄嗟に苦しむ男性の口を開き、その薬を舌の裏に入れた。  男性の容体は次第に落ち着きだしてきた。その場にいる女子高生が「大丈夫ですね」と安堵した声を掛けて、自分のピルケースをカバンの中にしまう。 「今のは、ニトロ?」と偵川が尋ねると、「はい。私も子供の頃から心臓が悪くて、ニトロを普段から持ち歩いています」と彼女は答えた。  どこからか救急車のサイレンが聞こえてくる。暗闇に閉ざされた横浜、港町に色とりどりのネオンが輝き始める。その中、オレンジ色の機械を手にした三津目が駆け足で戻ってきた。 「三津目さん。もう大丈夫です」と偵川が周りを落ち着かせようと、静かな口調でいった。 「そうですか・・・。よかった。あっ!彼女は?」と三津目が手にするAEDを持ったまま周りをキョロキョロと視線を向けるが、三吉りさと名乗っていた少女の姿は見失っていた。 「一体、彼女は何者だったんだ」と三津目が呟くと、探玄は「また、会えると思いますよ。彼女、その三吉りさという、女子高生殺人事件の関係者だと思います。彼女は・・・・」と、あとの言葉を濁した。  三人の男たちが搬送される男性を見送る。その活躍に対して、どこからか船の汽笛が港町に響き鳴った。
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