第七話 夫のアレがアレだとしても

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 主人公たちの恋を邪魔するΩ男性がいて、α男性もでてくる。性によるあれこれを赤裸々に描きつつも、社会の偏見に勢いよく異議申し立てする登場人物が痛快だ。  エンディングになりそれぞれの性をもつ登場人物たちが、急に踊り始めた。ハッピーな気持ちになる。鳥飼の勤める飲料メーカーがスポンサーでCMが流れた。 「あっ、誠の会社じゃん」 「ふふ、視聴率いいんですよ」 「言って。それ早く言って。最初から見たかったな」 「録画してありますよ」 「やったー」  二人、並んで搭乗口に向かって歩き出した。ドラマの感想を言い合う。旅行前の楽しい気持ちとあいまって、しゃべってもしゃべっても話はつきない。  イオはドラマに携わる大勢の人たちに思いをはせる。世の中に風穴をあけよう、新しいものを発信しようというパワーを感じて元気がでた。自分の夫がそれに関わっているのも誇らしい。  一人じゃない。  それはエンターテインメントの形を借りたメッセージだ。 「あのさあ、」 「はい」 「ぼくら仲良しだ、ね」 「そうですね」  イオの笑顔に、鳥飼もにっこりする。通り過ぎる人たちが二人を羨ましそうに見ている。逞しいαと美しいβの同性カップルだ。  身につけているものはゴージャスで、特にイオの手首の時計は泣く子も黙る高級ブランド品だった。今この瞬間の二人をきりとるなら、誰しも敗北を宣言するだろう。それくらい恵まれた完璧なカップルに見えるはずだ。 「もうさ、ぼく、何があっても大丈夫な気がする」  イオは鳥飼の腕をとりながら微笑んだ。肩に顔を押しつけはずむような声をだした。 「ですね。イオくんはわたしの最高の夫です」  その最大級の賛辞に、イオはくすぐったいような顔をした。 「あのさあ、その『最高の夫』から『最高の夫』にお願いがあるの、きいてくれる?」 「なんでしょう。こわいな」 「チケットって今日の遅い便に変更できない?」 「……と、つまり?」 「今から流助に会いに行こうよ」  思っていたことを口にしてしまうと、怖いものなどなにもないと気づかされる。  自分がどうしたいか、どうありたいか。  それがくっきりとわかって、自分の声に自分が励まされるのだ。
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