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流助は何か言いかける。しかし鳥飼は流助の言葉をさえぎるように続けた。
「考えたんです。わたしに流助さんのように『運命の番』が現れたらどうするか。今まで可能性として考慮したことがありませんでした。0.01%の確率なんか、低すぎてゼロみたいなものだと。
しかし実際に流助さんにはそれが起こった。それを目の当たりにして自分にも起こりうることだと気づかされた。
イオくんは言ってくれました。
そうなっても許す、と。わたしが『運命の番』に出会って、イオくんの前からいなくなっても、わたしの苦しみに寄り添うと。まあ実際そうなったら修羅場は避けられないと思うんですけどね」
イオが怒るとすごくこわい。眉を寄せおびえる仕草をすると、流助は、つい笑ってしまう。
でも。
「わたしたちαとΩが本能に抗えない苦しみを、イオくんは理解し許してくれた。わたしは『運命の番』と出会わないかぎり、一生イオくんを守ろうと思っています。だから流助さん、わたしと一緒にイオくんのそばにいてください。
もしわたしが万が一、『運命の番』に出会ってイオくんを裏切り彼のもとを去るようなことがあれば、流助さんが私の分までイオくん守ってください。一緒にいてあげてください」
「……そんな、俺、でも、」
「値段じゃないんです。だいたい値段なんか誰かが適当に意味ありげにつけてるんです。好きか、どうかです。いくら高いものでも嫌いなものは買いません。逆もそうです。わたしたちの気持ちがしっかりしていればいい、何円でもいいのです。持っている者が支払えばいいじゃないですか。
周りから何を言われてもいいじゃないですか。周りがわたしたちに何をしてくれるというんですか。それよりイオくんを泣かせないことが大事では? 流助さんがいなくなって、イオくんはたくさん泣きました。わたしはイオくんが泣く姿をもう見たくないんです」
「鳥飼さん。もう、俺はあの頃の俺じゃないんだ。鳥飼さんやイオが知ってるような俺じゃないんだ。あの人と別れた後、俺は」
「流助さん、言わないでいいです。本当にわたしに聞いてほしいならちゃんと聞きますが、今は自分の言葉に傷つきたがっているようにしか思えない」
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