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流助は目を真っ赤にして耐えた。二人は月の光の中、健やかに眠るイオと巌太をただ見つめた。
「……るたあ」
突然イオが寝言を言った。深刻な空気をまったく無視し、何か楽しい夢でも見ているのか、にやにや笑うとぽりぽりと顎のところをかいた。
二人は顔を見合わせ、微笑む。
「かわいい」
「ほんとにこの人は」
「ねえ、鳥飼さん、」
「はい」
「巌ちゃん寝たことだし、イオ起こしちゃわない?!」
流助が真っ赤な目をしているくせに、いたずらっぽく笑った。
「そうしますか……」
鳥飼はにっこり笑い、巌太が目を覚まさないよう注意深く、イオを抱き上げた。その様子をうっとりと見ながら流助は言った。
「王子さまとお姫さまみたいって二人のことずっと思ってた。俺はおつきの小人」
「何を言っているんですか。これから一緒にお姫さまを守るんです。流助さんも王子さまですよ」
鳥飼はしなれないウインクをすると、流助はへへっと笑う。
「……鳥飼さん、俺に役割をくれてありがとう」
「どういたしまして」
「俺もイオを守る」
「その言葉を信じます」
「そういや鳥飼さん、フィルタグラスやめたの?」
流助は緊張をあっさり解除して、気さくに鳥飼に尋ねた。鳥飼もほっとして一気に呑気な気持ちになった。そうそうこれこれ、この感じ。二人の間の空気はこんな感じのゆったりしたものだった。懐かしくて胸が痛い。これからはこれが毎日続いてゆく。
「いろいろあってですね、話すと長い」
「そうだね。俺もいっぱい話したいことがある」
「これからゆっくり話しましょう」
「そうだね! でもとりあえず、今夜はぐふふ」
「悪い王子さまですね」
「王子さまも人間ですから~」
流助は歌うみたいに変なフシをつけて言った。
「ん……なに……?」
鳥飼に抱き上げられて隣の部屋に連れてこられたイオは、半分眠ったまま長い腕を伸ばす。その手は流助の頬に触れる。とたんにふわんと微笑みが顔全体に広がった。
「流がいる」
「いるよ、イオ」
「誠もいる」
「います」
「巌ちゃんは?」
「眠ってますよ」
「良かった」
もぞもぞとしてまた眠ろうとするイオの、うっすらと開いた唇に流助は軽くキスをする。優しく優しく舌を触れさせついばむ。そうして無抵抗な人の寝間着、旅館に備えつけてあった簡素なそれを脱がす。
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