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家事とは、途方のない行為である。魔の永久運動だ。
やってもやっても終わりというものはない。ごはんを作れば鍋やフライパンが汚れる。使った食器が山積み。それをきれいに片づけたところで次の食事だ。
流助は、フローリングに落ちている巌太のパンツを拾って洗濯籠に入れた。ソファの下に飲むヨーグルトのパックが落ちている。ゴミは捨てろとあれほどいっているのに。ほんとにあいつは。
洗濯機がからんからんとなっているのを止めた。中からどんぐりが出てきた。もうそんな季節か。
きれいにしてもどうせすぐ汚れる。しかし片づけないわけはいかないしなあ、といつもの思考パターンの後、心を無にして淡々と掃除をした。
ようやくひととおり片付き時計を見る。そろそろ夫を起こさなくてはいけない。
寝室に入ると、夫がいなかった。
あれ、っと思う。夫がベッドと壁のはざまにはさまっていた。
「イーオ。そろそろ準備しないとやばくない?」
返事がない。よいしょっと引っ張り上げる。
「イオ、準備しないと」
「嫌だ。……今日いかない」
「行きたくないの?」
布団にくるまったイオの髪をがしがしかきまぜる。
「絶対失敗するむり」
「……イオ、大丈夫だよ。イオはできる」
「できない」
「じゃあできない。できないって言ってる人はできない」
巌太にも昨日同じことを言ったなあ、と思うと流助は笑ってしまった。何もできない自分が人にこんなことを言っているのも滑稽だ。それでも無理してでもこういうことを人に言わねばならないのだから、親ってやつは荷が重い。
「……」
イオがのそのそと起き上がる。
「行くし」
「おら、がんばれ!」
背中をばしんと叩くと、うっとうしそうな顔になる。諦めたように着替えをはじめた。
「イオ、今日もかっこいい、きれい、最高!」
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