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流助はベッドで飛びはねながら、大げさに、しかし最大限のエールをこめて賛辞を叫ぶ。イオは一応付き合いでやる気のないこぶしを振り上げてみせる。奇声を発してベッドに倒れた流助に、ちょっとだけ笑った。
「ガンガンは?」
「とうの昔に学校」
「まこりんは?」
「イオの番組にあわせて帰るって」
「なんで」
「家でゆっくり見たいって言ってたよ。会社早退するって」
「そう」
イオは、少しずつ自分の気持ちを立て直しているようだった。ゴールドの時計をつけながら言った。
「じゃあさ、家に二人だけ?」
「そういうこと」
「ふーん」
「何」
「いや、別に」
「言いなよ」
「いやいや」
イオはさっきとはうってかわった表情でふふっと笑うと、小声で「ちょっとだけしたい」と言った。
「ひー、恥ずかしい」
「なにをいうか、こっちだって恥ずかしい!」
流助はベッドをおりると、イオにくっつく。
いひひと笑いあって、キスをしようとすると、玄関でバタバタと音がして、巌太が帰ってきた。
「ただいま! あれ、イオがまだいる!」
すばやく離れた二人の間に割り込むように巌太が入ってきて、ランドセルを放り投げながらおやつのドーナツを食べている。イオの顔がぱっと親の顔に切り替わった。
「巌太、食べこぼし、手を洗え、それから、なんでこんな早い」
「今日だってC時程だもん」
「えっ、なんで水曜なのに? お前また『お知らせ』見せなかったな!」
「イオ、時間いいの?」
「わ」
イオは愛用の腕時計で時刻を確認すると、あわただしく流助と巌太にキスとハグをし、バタバタと出かけて行った。口パクで流助に「惜しかったね」と合図を送る。今夜あたり大人の時間にたどりつきたいものだ。
イオと入れ替わるように鳥飼が帰ってきた。思ってた以上に早い。保育園へのお迎えも行ってくれて、肩に一人、両腕に一人ずつ子どもを抱えていた。その連絡が携帯に入っていたのに今気づく。
両腕の双子を一人受け取り、一人は床に放つ。肩車の子はそのまま鳥飼が下に下ろした。
「一匹多い」
「さっき預かりました。お隣さん、風邪でつらそうだったから。一人増えたところでかわりませんし」
「リラちん、いらっしゃい」
「イオいたのよ。バイバイしたの」
お隣のβ女性二人に育てられている4歳のリラはそう教えてくれた。
下で会ったよ、いい顔してたから、今日はたぶん大丈夫と鳥飼が補足した。
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