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子どもたちにおやつを与える。巌太が感心なことに宿題をやり始めた。子どもみてるから流助もやればと鳥飼に言われたので、ありがたく部屋にこもって通っている高校のテスト勉強を始めた。
小学生の巌太はともかく下のチビたちは何度も扉を開けて邪魔してくれる。それを鳥飼が何度も迎えにくるのだった。
「流助さん、ちょっといいですか」
小一時間くらいやって、少しめどがついたところで、鳥飼が一人で部屋に来た。手に封筒を持っていた。
「前言っていた件のやつ、見ますか」
流助が首をふると、鳥飼はわかりましたと言ってそのままドアを閉める。と思ったら、またドアが開く。
「あともうそろそろですよ」
「オッケー」
流助は今三度目の結婚を継続している。
一度目はマッチングサービスの紹介によって二人の男性と結婚した。二度目は予期せぬ相手と。そして三度目は一度目と同じメンバーでの再婚だった。
鳥飼は流助の二度目の相手の監視を、とある機関に頼んでいた。相手の居場所を常に把握しておく必要があった。万が一出会ってしまって、α同士、殺し合いになってしまってはならないからだ。
先日代理人同士の正式な話し合いがもたれて、双方争いは望まないという点で合意がとれた。それを書面にまとめたものが届いたのだ。
もし先方が「運命の番」の復活を望めば、巌太を排除に動くのではないかと鳥飼は危惧していた。過去に「運命の番」をめぐっての子殺しの事件があることを鳥飼は調べあげていた。
鳥飼は家族を守るためにあらゆる危険を想定して、さまざまな権力を使う。流助はそれをとめなかった。鳥飼の気がすめばいいと思っている。それでも一言だけ言った。
「もしその気があれば、最初からそうしていたよ」
もう記憶がおぼろげだが、苦しいほどに愛されていた。そのことだけは身体が覚えている。
彼は医者だった。
流助に気づかれないように、堕胎させることも可能だったに違いない。しかしそうしなかった。
「先方も結婚したようです」
流助に報告しながら鳥飼は警戒を緩めていなかった。瞳の虹彩の輝きを見ればわかる。
「……そう、教えてくれてありがとう」
なるべくそっけなく答えた。あまり感情をだすと、鳥飼は嫉妬する。闘争心が瞳に宿っている。αとはそういう生き物だ。
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