第九話 運命を、笑え!!

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 写真家のセシル・Dにみそめられたきっかけのポスターが紹介される。政府の人権啓発ポスターだ。怒ってもない笑ってもいない。ただこちらに訴えかけるような表情で、見る者の心をゆさぶる。年齢、性別が明確にされていない。これは誰だ? と話題になった。  鳥飼はそれを初めて見たとき「キラキラが、キラキラが写真にうつっています」と興奮気味に言った。  鳥飼が見えているものと同じものが見えるはずないのに、鳥飼の言う「キラキラ」が確かにそこにあるとわかった。流助も、イオ本人にも見えた。そして家族にしかわからないと思われたキラキラは、見る者すべてに伝わった。  そのポスターをきっかけに、イオの大躍進が始まった。  無名の中年モデルであるイオが、老舗高級時計メーカーの世界的キャンペーンのメインビジュアルに選ばれた。一気に話題をさらう。それが去年のことだ。最終選考ではそのブランドの中でもレアなラインの時計をイオが長年愛用しているという事実がプラスに働いたときいた。あのラグジュアリな誕生日プレゼント。ゴールドの時計だ。  その仕事がひととおり紹介される。リビングも会場もイオの美しさに魅了される。 「さてプライベートのお写真です」 「イオさんは三人婚をされていて、三人のお子さんのお父さんでもあります」  会場がどよめく。 「みえませんよね!? はいこちら」  パネルには三人の腕と子どもの手だけの写真が貼られている。顔はうつっていない。 「こっちも腕時計ですね」 「あったかい~ええ感じ~しあわせやん~」 「はい。家族に支えられて今の自分があります」  三人の揃いの腕時計は最初の結婚の時買ったもので、しまいこんでいたのを番組のためにひっぱりだした。ほとんどつけたことがないのに、普段から使っています、みたいな顔で写真をとった。今は巌太が一つ使い、残りの二つは双子のものになった。双子はまだ小さいので大事にしまってある。 「なかなかイオ、いい感じの流れだね」 「もうネットでもぽつぽつ出てきてますね。ファンの反応いいですよ」  鳥飼はタブレットでチェックし真面目に報告する。 「次のお写真は家族が撮影してくれました!」  写真が紹介されるなり、番組観覧者から大爆笑が起きた。
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