第一話 ベッドの上の%

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 つられてにやにやしてしまう。だってこのグラサン(みたいなやつ)つけっぱなし男は、細いストライプのパジャマが定番の裾インなのだ。  鳥飼の場合、流助みたいに家と外の区別が曖昧で、出かけるのもくつろぐのもほぼ同じ格好なんてことは絶対ない。  三十四歳にして大手飲料メーカーの幹部で、仕事に出る時はビシッとスーツ着用はこれ当然。家庭内でも常に折り目正しく、スリッパはいつ何時でもちゃんと履いていて、流助のように真冬でも靴下さえ我慢ならず、左右違う場所に置き忘れてしまう、なんてことはない。服のまま寝る、なんて日もない。  時刻は午前四時。  こんな時間さえ鳥飼はちゃんとしていて、すごくかっこいい。  目線を合わせるためか、鳥飼も流助と同じように床に座った。一まわり以上年下の流助に背中を丸めて顔を近づける。 「すごい音がしましたがケガはなかったですか?」  暮らしを共にしていても、時々気になる。家でもずっとそんな黒い眼鏡をつけっぱなしって邪魔になりませんか。自分だったらすぐはずしてすぐなくす。  だから「なんか、悪いっすね」と謝ってしまう。「うっとうしくない?」と聞いてしまう。  それに対し鳥飼は「いえいえそんなそんな。むしろつけていないと落ち着かなくて。もう顔の一部みたいな感じで」なんて言う。  そう即座に言いきられてしまえばこちらは「そっすかー」としか言いようがなく、会話は終了となる。流助は人の言動の裏をいちいちおもんばかるタイプではない。  そうやってα(アルファ)の鳥飼が結婚生活において気遣いを見せているのに対して、Ω(オメガ)である流助は、基本何も考えていなかった。  抑制剤を飲み忘れてうっかり発情し周囲に迷惑をかける。三か月に一度の発情(ヒート)の周期もイオや鳥飼がカレンダーに記入してくれて、初めて把握する始末だ。  このような自覚のなさは、これまで両親からさんざん叱られ続けてきた。ヒートの時は外出禁止を言い渡される原因にもなった。結婚してからは、もう一人の夫であるイオに小言は引き継がれ、流助はネチネチとイオから怒られる。
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