第二話 玄関開けたら

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 二人いわく、初めて会った時から結婚を考えたらしいけれど、イオの場合、そうではなかった。  結婚は生活で、生活は経済だ。  マッチングサービスは相手を選べないけれど会ってから断られるリスクを考えると、容姿が美しいうちに高値で自分を売りたいと考えた。  正直αである鳥飼がいなければ考えなかった結婚だった。  αの鳥飼とΩの流助の間にいる自分は、本来余計な要素に違いない。できれば流助をはずし、αの鳥飼とだけの結婚ならいいのにと思ったこともあった。  それが二回、三回と会うほどに流助を、三人で過ごす時間を好きになっていった。  鳥飼は、優しい。優しいからこその優柔不断さがある。二人だったら関係は煮詰まってしまったかもしれない。三人そろうと不思議な風通しのよさがあった。  出会ってからこのかた、「好き」がどんどん更新されてゆく。それはいつか高どまりするのだろうか? 何年も一緒に暮らし、子どもができたりすれば失墜し、倦怠するのだろうか?    流助がばりばりと手首を掻いた。またちゃんと薬を塗っていない。  イオは薬をもってきて、悪化しかけている湿疹のケアをした。 「ほんっとすぐ忘れる」  鳥飼は微笑みをつくり、イオが流助の世話を焼くのを見ている。明かりをけした。一日が終わる。  と思ったらそこまでが夢だった。夢ならもっと現実離れしていてほしい。これじゃ、ただ今まであったことを復習しただけじゃないか。  損した気分。 「ちょっと聞いて聞いてさっきまで見てた夢……」  目をこすりながらリビングに乗りこむ。二人の夫が同時に振り返る。  大きい方と小さい方、イオの二人の夫が「何?」っていう顔をしている。  その顔には真から他意というものがなく、ただの家族の顔でイオが次に何を言うか待っている。  愛しさが募る。  ふわふわしたまま「そういうところが好きだよ」と言った。  すると流助が、好奇心に満ちたまん丸の目をして聞いてきた。 「ねえ、イオ、『りたごるらお』って今言った? それどういう意味、前も言ってたけどなんなの?」
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