第三話 親に紹介したい系

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 待ち合わせには約束の十分前についていないと落ち着かない。  鳥飼誠は仕事が終わったその足で駅改札前につくと腕時計で時間を確認した。ジャスト十分前だった。  約束の相手である細長い方の夫からは遅れるという連絡を少し前に受けたばかりだ。人を待つのはいっこうに構わない。待たせることの方が苦痛だった。  夫に返信をする。  メッセージアプリのスタンプが最近彼の中で流行っているゾンビなのでこちらも変なスタンプをと思うがたいして面白いものはなく、大げさな死にかけの遅刻連絡に「気をつけてきて」と真面目に返信したら(真面目にそう思っているのだから仕方ない)、すぐ既読がついて「もうすぐつきそう」と返ってきた。  一度携帯をしまうと、目の前にサイネージ広告があるのが目にとまった。 『出会いの少ないぼくたち  本気で結婚を考えています』  身近にいそうで実際には存在しない、明るく爽やかで控えめな印象の男性が照れくさそうにこちらに向かって微笑んでいる。  イオだった。  この人と真剣交際すればその先に明るい未来がありそう。本人と結婚しているというのに、そんなことを思った瞬間、別の広告に切り替わってしまった。  次に現れるのを待ちかまえ、切り替わった瞬間携帯で連写して、イオフォルダに写真を保存した。  イオフォルダには街で見かけたり取り寄せたりして収集したイオの画像がたくさん入っている。  白衣で健診の案内をしたり、歯のホワイトニングをすすめる医師系、スーツを二着買うと割引になるキャンペーンや転職に意欲をみせているビジネスマン系、住宅展示場でくつろいだり保険の相談をしている若いイケメンパパ系、爽やかフェロモン全開の彼氏にしたい系、いろいろあるが、これはたぶん親に紹介したい系だ。  そう思っていると、当の本人が登場した。 「ごめん」  目の前に現れたリアルなイオは、尖った雰囲気の美形だった。広告の中のイオにある親しみやすさは皆無だ。
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