第三話 親に紹介したい系

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 結婚相談所の広告に切り替わったタイミングで指さす。自分の姿をみとめたイオは「好青年だね」と他人事みたいな感想を言って鳥飼を笑わせた。  実際のイオは夫の欲目じゃなく、本当に輝かんばかりの美貌だ。それなのに写真にとられたイオはオーラがまったく消えていて、親しみやすい人そのものなのだ。  いつもそれが不思議でたまらない。  鳥飼だけでなく本人を知っているものは皆、その違いに若干頭が混乱する。  そういえば以前イオが言っていた。  写真に撮られたぼくは「まぼろし」。ぼくじゃない。 「じゃ、行く?」 「ですね」  二人歩き出す。美しいイオと一緒に歩くことは、鳥飼にとってまだ少しハードルが高い。  それは鳥飼が、生まれてこのかたずっと、自分がαであるという事実に違和感を感じているせいだった。  αは絶対強者だ。  鳥飼はαがパワーの証のように美しい恋人や妻、夫を連れ歩いているのを見るのが好きではなかった。  世間から、αは恋人や配偶者を最新のファッション、または車や宝石のようにみせびらかしていると思われているのを知っている。憧れられ、妬まれている。しかし当のαはそんなもの、全くの無頓着だ。それが「持てる者」のおごりに思えてイライラする。  しかし流助の言葉を借りれば、「金額じゃない」。  αに生まれただけで、自然と特権を手にしてしまう。子どもの頃は自分の努力を信じていた。しかし努力をできる環境にあったことはとても恵まれたことなのだと、あとで気づいた。  今の仕事や地位もαだという理由だけで手に入れたわけではないと思いたい。しかし社会構造を考えるとやはり自分がαだからこの地位にいるのだと思う。αは競争が好きで勝つための努力を楽しめる。脳の構造がそうなっている。  それが鳥飼を後ろめたい気持ちにさせる。  経済的に恵まれていること、社会的にもパワーをもち、健康で頭がよく、育ちがいい。身体的にも優れている。大多数のαがそれになんの疑問ももたない。  鳥飼はαのくせに自意識をこじらせていて、自分のαとしての人生に居心地が悪い。  マッチングサービスへの登録はそんな思いからだった。
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