第三話 親に紹介したい系

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「こんなのもらったの初めてだ!」  飛びあがって喜んだ流助だったが、真に嬉しかったのは肉の方なのは明白で、それをつけているのをほとんど見たことがない。流助は肌が弱いというのもあって、アクセサリーのたぐいは基本身につけない。時間の確認は携帯で足りている。  また、鳥飼の誕生日に贈られたのも時計だった。 「鳥飼さんはなんでも持っているから相当悩んだ」 「でもこれは持ってないでしょう」  言われるまでもなく時計などゴロゴロ持っている。物欲がなく何かを欲しがることもほとんどない。  もらったそれは若者向けのカジュアルブランドの時計で、鳥飼が絶対選ばないだろう遊び心のあるデザインだった。鳥飼の趣味は完全に無視した、二人の好きな感じのものだ。 「へへ、おそろいなんだよ。さすがにおそろいは持っていないでしょ」 「トリプルおそろい」  突き出された二人の腕には同じものがあった。  とてつもなく嬉しかった。  例え今後この時計をなくしたとしても、引き出しの奥にしまいっぱなしになったとしても、今日のこの日の思い出だけできっと生きていける。  実際鳥飼も流助と同じく、もらった時計をほとんどつけることはない。  しかしデスクの一番いい場所に飾っている。お揃いなんだと思うとにやにやして、つけてみて、またホルダーに戻す。今度旅行にでも行くときにつけようかな、と思うがたぶん十中八九つけない。  流助だってたぶん同じ。つまり、つけるつけないに関係なく、プレゼントが嬉しいという気持ちはスペシャルだ。  おめでとうを言われた記憶が時計に封じこめられている。  それを眺めるだけで幸せな気持ちになる。流助の華奢な手首、イオのすっとした白い手首、自分の太くごつごつした手首に同じ腕時計。照れくさくて勝手に顔が笑う。  イオの手首のゴールドを見ると、そんなことを鳥飼は思い出す。 「こんばんは」  駅から十分ほど歩き、イオと二人、海老茶色の暖簾をくぐった。「おっ、きたか」とはりのある声と明るい笑顔が出迎えてくれた。 「久しぶりだね、ほらここ、ここ、カウンター座って」 「お義父さん、これ、」  そうそうにイオが細長い封筒を渡す。 「えっ、なになに」 「前言っていたチケットです」 「え、母さん、ほら」  義父母は二人でそれをしげしげと見た。二人の好きなバンドの二十周年ライブのチケットだった。
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